会長挨拶

国立社会保障人口問題研究所
名誉所長
社会福祉法人浴風会理事長
京極 髙宣

この度、「健康生きがい学会」の初代会長に推薦され、健康・生きがい開発財団のご支援もあり、就任することになりました。学会の今後の方向性を決定づける初代会長という重責に身が引き締まる思いです。就任にあたり、私の考えを述べさせていただきます。

21世紀が少子高齢・人口減少社会になることは皆さんご存知のことと思います。特に、わが国の高齢化・長寿化率は他の国々のそれと比較して群を抜いています。平均寿命も、男女ともすでに世界最高水準に達しており、いわば、わが国は「長寿先進国」といっても過言ではありません。

一方、わが国の高齢者1人ひとりを取り巻く状況を見てみますと、社会経済の面においても、また、個人の意識の面においても、大きな変化の時期を迎えていると思われます。少子高齢社会の急速な進行、近年の景気低迷等を背景として、家族や地域の機能は大きく変質し、高齢者を取り巻く状況は以前と比べて一段と厳しくなっています。そのため、高齢者を自立した生活者として捉えなおしたうえで、わが国の保健、医療、福祉サービスそのものを抜本的に見直し、高齢者の生活の質(QOL)を確保することが求められています。

これからの21世紀、わが国が「長寿先進国」として世界の先頭を切っていくことを考えると、従来の生産年齢人口と老年人口の区分を、少し変える必要があるのではないかと思っています。つまり、これからは65歳以上ではなく75歳以上を真の高齢者と考えて、65~74歳はいわば熟年後期(“later half of middle age”)とします。65~74歳は大変活力があるので、これからの社会の仕組みの中で、この人々を大きく活かすかということが重要で、そうすれば安定した世代間関係が21世紀後半にも保たれます。そのため、要介護を含めて、高齢者といわれる人々、これから高齢者になる人々に対しては、かつてのような被扶養者との関係の視点ではなく、彼らが何を考え、何を望んでいるのかといった「人間主体」をとらえる視点を大切にしていかなくてはなりません。高齢者が社会との関係を保ちつつ、自己の能力を最大限に尊重し、それぞれの個性を生かして生きていくことは高齢者の人生の充実と社会の活性化の両面において有効であると考えられます。

健康で生きがいに満ちた高齢期を迎えることは万人の願いです。全ての高齢者を生活主体として、その健やかな老いを保障することは老人福祉の究極的な目標でもあります。このような目標に立つと、かつてのように高齢者を単に保護や援助の対象とする考え方は時代遅れとなります。世界で例を見ないほどの急速な勢いで高齢化が進行するわが国において、今後の高齢社会のあるべき姿-自立と共生の社会-を示すことは、国際的に見ても先駆的意味合いを有しているのではないでしょうか。

これまで、健康な高齢者を主な対象とする健康生きがい施策は今日の福祉国家のなかでもわが国特有の施策とされてきました。また、健康や生きがいといった従来ややもすると私的領域に任されたものが国や社会に必要なものとして再認識されたことによって、老人福祉法の基本理念にも反映されました。私は健康生きがい施策が高齢者福祉にとって特に必要なものであるということをあらためて指摘したうえで、これを単なる政策論に終始させるのではなく、これらは高齢者の権利であるということ、-私はこれを新しい基本的人権としての「健康生きがい権」と呼んでいますが-、これを真に確立するために今後さらに一歩進めた議論を総合的に展開していく必要があるのではないかと思っています。

高齢期特有の問題は、1つの領域だけでは解決することはできません。したがって医療、福祉、
教育、心理、法律、経済等のあらゆる領域の知を結集した学際的な研究によって課題解決に臨むことが必要です。また学問の領域だけにとどまらず、産官学民と連携しながら今後の高齢社会のあるべき姿を示していく必要があります。この健康生きがい学会がその役割を果たし、日本を代表する学会として成長していくように、微力ながら最善の努力を注いでまいりますので、皆様にはどうかご支援ご協力をお願い致します。